2月3日 『沖縄学〜ウチナーンチュ丸裸』(仲村清司著)を読む

沖縄の書店には、必ず「沖縄関連コーナー」があるところが面白い。

そこで目に留まり購入した、沖縄カルチャーの解説本がコレ。


『沖縄学〜ウチナーンチュ丸裸』(仲村清司著/2006年発行)

作者は、1958年生まれのウチナーンチュ(沖縄人)2世。

高校までを大阪、大学を京都で過ごし、東京で16年間生活した後、1996年、38歳のとき、沖縄に移住している。

本書では、沖縄県民の大らかさと裏返しのいい加減さ、異文化を受け入れる態度、他県に比して極めて高い愛郷心、生活力のある女性とちょっと頼りない男性等々、本土人とは大きく異なる沖縄県民の気質や行動様式について紹介し、分析している。

さらには、国や県の統計データやシンクタンクの調査結果、ネットの沖縄移住者の体験談や意見、中国と冊封関係にあった琉球王国時代に中国人やアメリカ人が残した文献なども紹介し、そこから沖縄人の特殊な行動様式の原因を探ろうと試みる。

こう書くと、「本土育ちのウチナーンチュが、自らのルーツである沖縄に移住して書いた沖縄紹介の本」と簡単に括られてしまいそうだが、軽妙な語り口で綴られた文体とは裏腹に、この本が書かれた背景にあるものは、ずっしりと重い。

作者が生まれた1958年は、沖縄が日本に返還される14年前。

本土における沖縄人への差別意識は強く、両親は筆者の身を案じて、自らが沖縄出身者であることを頑なに息子に隠し続けていた。

その後、思春期になって、偶然、自らのルーツを知ることになり衝撃を受ける。

子供にまで出身地を偽る親の卑屈さに反発し、沖縄人をそこまで追い込んだ日本社会を激しく憎んだという。


「沖縄が復帰した『祖国』とは何なのか」

「二世とは、ウチナーンチュなのか」

自分自身のアイデンティティを探る苦悶の日々が続く。


社会人になり東京に出てからは、沖縄県人による互助組織に参加し、「エイサー大会」、「三線教室」などの沖縄文化継承活動を行いながら、基地問題や人権問題といった「沖縄問題」に取り組む活動に、積極的に関わるようになる。


作者は、ウチナーンチュ二世として、自分の気質の中にある沖縄人的なものは一体何なのかについて、本書を執筆しながら考察しようとし、「はじめに」で以下のように記している。(以下、引用)

例えば、「時間にルーズ」「大ざっぱ」というウチナーンチュならではの気質も、これまでは「南国だから」というなんとなくのイメージでしか語られなかった。しかし、こうした先入観を排して、その原因と考えられる風土、歴史、文化、宗教観、人間観などをあらゆる角度から縦横に掘り下げて分析していけば、ひとつの起因なるものが浮き彫りにされるかもしれない。
そして、これに整合性が得られれば、僕自身の気質や性質のこの部分はウチナーンチュとよく似ているのに、ここはなぜ似ていないのかという理由もルーツという観点からひもとけるかもしれないと考えたのだ。


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作者の紹介や、本書の概要はこのくらいにして、興味を引いた作者の沖縄考察をご紹介しよう。


1. テーゲー主義   

良く言えば「おおらか」、悪く言えば「いいかげん」とも言われかねない、問題をつきつめて考えずに大まかに受け止め、のんびりと気楽に過ごす、悠長で楽天的な、いわゆる〈ウチナーンチュ気質〉を表す「テーゲー」。

誰かが遅刻やミスをしても、けっして相手をギリギリまで追いつめない。関係性がギスギスしないように、いいあんばいに保つ為の処世術。


2. ナンクルナイサ

「くよくよと自分にとらわれなければ、おのずとなんとかなってしまうものだよ。だから、そんなに心配しなさんな」という意味を持つ励ましの言葉。

台風など自然災害などで被害を受け、呆然としている被災者の肩を叩きながら、「ナンクルナイサ」と言って慰めると、その場の憂鬱な雰囲気もふいに光明が差したように明るくなり、気分も軽くなって救われた感じになる。


3. チャンプルー精神

さまざまな文化を取り入れて自らのものにしていくという気概、もしくはスピリッツ。単なる「ごちゃまぜ」ではなく、他の土地からいいものを取り入れ、沖縄の土地に合うよう、ねんごろに手を加え、さらに改良を重ね、独自のものを作り上げていくアレンジ精神をいう。

音楽の世界でいえば、沖縄にはポップス、ロック、ラテンなどあらゆるジャンルの歌があるが、ミュージシャンたちは琉球音階や三線を加えたり、島の方言を歌詞に組み込んだりするなどして、土地の伝統文化を堅持することをけっして忘れず、アイデンティティの所在がはっきりしている。


以上が、沖縄の代表的な精神文化、ウチナーンチュの真髄といえるものの代表格。


さらに、本書で出会った沖縄の格言を、ひとつご紹介。

沖縄には「他人に痛めつけられても寝ることはできるが、他人を痛めつけては寝ることはできない」という古い言い伝えがあるという。

そういえば、沖縄の美容室で髪を切りながら、軽いノリで世間話をしていたスタイリストのお兄さんが、ひとたび戦争の話に触れた時、「沖縄の人間は戦争になって『人を殺せ』と言われたら、おそらく自分が死ぬことを選ぶ。そういう人が多い」と語ってくれたことを思い出す。


ウチナーンチュは、奥が深い。

その真髄は、時代の変化によって見えにくくなってしまってきているようではあるが、まだまだ、その精神性は薄れてはいない。

親から子、子から孫へと語り継がれ、行動を持ってその身に、魂に刻み込まれた伝統文化がそこにある。

それは、核家族化せず、親類縁者との横の繋がりを重んじる社会に生きる人間が代々培ってきたDNAにより、人間社会本来のあり方の規範が守り続けられているからなのだろう。



作者の「自分探しの旅」によって導かれた著作。

本のタイトルとなっている『沖縄学』とは、「沖縄を研究する」ということではなく、私達にとっては私達自らが「沖縄に学ぶ」「沖縄のファンになる」という事であったのだと感じている。

キャンピングカーで日本一周

キャンピングカーで日本一周の旅に出ています。夫婦二人、各地の歴史や文化、暮らし方を学びながら旅しています。

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