道の駅「つる」では、定期的に轟音が鳴り響く。
はじめは近くを通る高速道路を走行するトラックやバイクのエンジン音かと思っていたが、ジェット機が通過したのではないかと錯覚するくらいの爆音なので、もしやと思ってネット検索してみると、やはりそれはリニアの走行音であることがわかった。
最近では、安倍首相が「2020年の東京オリンピックに合わせての開業も視野に入れている」というというので、近くの丘の上にある「山梨県立 リニア見学センター」を覗きに行ってみることにした。
駐車場には、日曜日ということもあってか、関東周辺エリアから訪れた車がズラリと並んでいる。みなさん休日には、ふらりとこの辺りまでドライブにやって来ているものなのか。連休でもないと、そんな気にはならないものと思っていたKY夫婦にとって、ちょっと驚きの光景であった。
館内で、リニア実験線での試験走行を見学。
走行車両が通過するというアナウンスで、窓ガラスに張り付いてカメラを向ける。
ビューーン‼︎
リニアは瞬く間に目の前を通過してしまい、シャッターが上手く切れない。
館内での滞在中わずか30分程度の間に、リニアは2度、目の前を通過して行った。
ひと区間を往復しているらしいが、その度にあの爆音が鳴り響くのだ。
周辺住民の方々のご苦労は計り知れない。
ちなみに、このリニア試験走行は体験乗車が出来るらしい。
抽選制で2席1区画単位の申し込みを受け付け、1区画4,320円。
一回約43kmの区間を往復するので、所要時間は時速500キロだと10分ほどか。
1960年代に始まったという電導磁気浮上方式鉄道「リニアモーターカー」の開発。
初代リニア実験線は、1977年に宮崎県日向市から都農町の1.3 km区間に建設された。
しかし、この実験線は曲線や勾配が少なく、トンネルもない上に単線、走行距離も最終コースで7kmと短かったことから、実用化へ向けての有効な実験データを得られないとし、1987年宮崎実験線を視察した当時の運輸大臣 石原慎太郎が、新実験線の建設へと舵を切ったという。
東京オリンピックも、尖閣問題も、ことの発端は石原慎太郎。
この方の名前は、今後100年後、どのような評価となって歴史に名を留めることになるのだろう。
さて、こうして宮崎実験線でのリニア走行試験は1996年をもって終了。
1990年に、ここ山梨に実験線建設が着工され、リニアは実験の場を山梨県都留市へと移し、2003年になって世界最高速度となる581km/hを記録した。
確かに速さだけを見れば、その凄さは一目瞭然。
だが、これを本当に手放しで喜んでいいものなのか。
ネット上で、これまで指摘されてきた様々な問題点を挙げてみる。
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① 電磁波による健康被害
リニアモーターカーは、超電導磁石で車両を地上10cmほど浮上させるため、極めて強い電磁波を発するという。街中の送電線から発せられる電磁波が、近隣住民に体調不良を引き起こしていると指摘されて久しいが、リニアが発する電磁波は送電線の60倍以上(400倍とも)。この電磁波がリニアの乗客や沿線住民に健康被害を及ぼすのではないかと危惧されている。
② 水脈切断による河川や井戸の水枯れ
これまでトンネル工事では、水脈が切断され河川や井戸が枯れるという事例が各地で報告されている。調査によると、大井川では水量が最大で毎秒 2 トン減るとみられており、周辺住民60万人以上の生活や、農業者、企業などにも影響を及ぼすと指摘されている。
リニアの場合、品川~名古屋間の約285kmの約80%、250kmがトンネルになる。従って、より深刻な水枯れを引き起こす可能性が高い。
③ 活断層を横切るトンネル
リニア線のルートは南アルプスを貫き、多くの活断層を横切ることになる。そのため地震が起きた際の万全の対応が望まれるが、トンネル工事そのものが地震を引き起こす可能性も指摘されている。
④ 先の見えない残土処理
膨大な工事残土は「東京ドーム50杯分」とも言われるが、いまだに大部分の残土の受け入れ先が確保されていない。
また、ルート上にある岐阜県東濃地区には日本最大のウラン鉱床があり、このウラン含有残土の処理も問題視されている。
⑤ 地下から地上への乗換問題
東京・名古屋間の所要時間を新幹線と比較すると、リニアでは約50分ほど時間が短縮されるという。しかし、リニア駅は地下30〜40mにあり、地上の在来線からの乗り換えに20分以上かかることが予想される。
リニアは運行本数が少なく待ち時間もあるため、結果として新幹線の方が早かったということにもなりかねない。
⑦ 住民無視で起工を強行
地元住民からの不満の声が噴出し協議が難航する中、2016年11月1日、南アルプスの西端、長野県大鹿村では、村民には一切知らされず、コンセンサスも得られぬまま、トンネル掘削の起工式が強行されてしまった。
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⚫️安倍首相の国策事業
最高時速505km(現在の新幹線の2倍速)で走行し、東京―名古屋―大阪間438kmを 約1 時間で結ぶことになるという「リニア中央新幹線」。
この工事実施計画は、2014年に国土交通省によって事業認可され、2027年の運転開始を目指して建設工事が始まった。
総事業費 9 兆円を超えるとされ、事業主体であるJR 東海に対し、国は2017 年度から30年据え置きの無担保3兆円財政投融資を行い、ゼネコン 4 社(鹿島建設、 清水建設、大成建設、大林組)が工事を請け負う。
将来的に、JR東海はリニア技術を米国に無償提供し、米国を足がかりに世界各国にリニア輸出してゆくことを目論んでいるというが……。
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いくら走行時間が速くても、車窓からの風景を眺めるでもなく、ただ移動するだけ。
周囲の自然を破壊し、環境を悪化させ、人の身体、生活圏に影響を及ぼす恐れのあるもの。
それを追い求めることの意味とは?
そうせざる得ない理由は?
必然性は?
この見学施設は、そんな事を考えさせてくれる貴重な体験空間であると感じた。
一行を乗せた車は、静かに山梨を後にし、東京へと向かった。
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