朝、大音量のBGMと司会者のような女性の声が道の駅の駐車場に響き渡っている。
何かのイベントかと窓を開けてみると、「南アルプス・ロングライド2018」のノボリが見える。
2日間の走行距離190km、獲得標高2900mという、国内屈指の自転車レースだ。
今年で3回目だが、今年は空気も澄んでいるし、富士川沿いや身延山、下部温泉街など、景勝地を走るのはさぞかし気持ちが良いだろう。
我々KY夫婦は、レース参加者の後ろ姿を見送った後、昨日と同様、身延町方向に南下し、武田信玄の隠し湯として知られる下部温泉郷にある「湯之奥金山博物館」へと向かう。
金山関連の資料館は佐渡で随分と見たが、ここでは「砂金採り体験」が出来るという。
湯之奥金山は、山梨と静岡の県境に鎮座する毛無山(1964m)中腹にある、中山金山・内山金山・茅小屋金山の総称。
湯之奥金山の歴史は、有名な佐渡金山よりも100年ほど前に遡る。戦国時代の15世紀後半から江戸時代初期にかけて金が採掘され、17世紀末に産出量の減少から事実上閉山している。
1985年に、町は「ふるさと創生事業」の交付金のほぼ全額を金山の学術調査に投入し、その成果をもとに建設されたのが、この博物館だそうである。
金の採掘が、砂金取りから露天掘り、坑道掘りへと変遷していった様子が良く保全されている事から、1997年に黒川金山と共に「甲斐金山遺跡」として国指定遺跡に指定されている。
甲斐国は金の産出で昔から有名であったが、天下統一の野望を持つ武田信玄は、周辺諸国との度重なる戦争で使われる莫大な戦費をまかなうため、金鉱を非常に重視し、ここ湯之奥金山を重臣である穴山氏に管理させた。
武田領内では、金山経営を行う山師のことを「金山衆(かなやましゅう)」と呼ぶ。彼らは普段は金の採掘に従事するが、ひとたび戦になれば、城攻めの兵士として戦うこともあった。
武田氏が滅ぼされたのち、徳川幕府の支配下となったが、武田氏の財政を支えた金山衆は、武田氏の滅亡後、佐渡、石見をはじめとする全国各地の金山に散らばり、各地の金山採掘を技術的に支えることになる。つまり、「黄金の国ジパング」の先駆的な技術者集団だったのである。
先月訪れた佐渡金山では、坑道掘りが主であった一方、ここでは地表に露出する金鉱を掘り出す露天掘りが行われていた。ときに坑道を掘ることがあっても、それは金鉱を掘り出すというより、鉱脈の調査のためであったそうだ。
湯之奥金山と金山衆に関する10分ほどのビデオを見てから、金の製造工程に関する展示を見る。
佐渡金山でも類似の展示は見ていたが、ここの展示はよりシンプルで分かりやすいと思った。
次に、お目当てだった「砂金採り体験」をする。
横長の水槽がいくつも並んだ大きな部屋では、すでに先客が4人、水槽に手を突っ込んでゴソゴソやっている。
我々も専用のトレイと砂金を入れる小さなカプセルを渡され、最初に採り方を簡単にレクチャーされる。
専用のトレイには、魚のエラのような襞が数本付いている。そのトレイで水中の砂をざっくりとすくい取り、水中で素早く回転させる。
砂金は比重が大きいので、トレイの底に沈んでいく。表面の砂利や砂を水中でふるい落とし、再びトレイを回転させる。この作業を繰り返し、トレイの底の砂が少なくなった段階で、利き手でトレイを斜めにし、残った砂を落としていくと、トレイに付けられた襞に砂金が残ることになる(上手くいけばだが……)。
我々は先客の4人と向かい合って、腕まくりして水槽に手を突っ込み砂金を採る。制限時間は約30分。手際よくやらないといけないので、皆真剣である。
「砂は思い切って捨てて下さいね。素早くやって、回数をこなすのが勝負ですから」とのアドバイス。
Yは光って見えた粒を2粒採ったのだが、メガネを外してよく見ると、砂金でもなんでもない、白っぽい石英の粒だった。
Kが、指で楽につまめほどの光る粒を見つける。
綺麗な立方体で、興奮の声を上げる。
普段ボケっとしていてやる気のない脱力派のKの目がキラリと光り、表情がみるみるうちに変わる。
宝を前にすると、人は豹変するものだ。
100均で見せる表情と、どこか似ている気がした。
そんな騒ぎを見ていたスタッフの方が近寄って来て小ビンを覗き込む。
幸先良いと喜んだのも束の間、無情にも「これは「黄鉄鉱」という別の鉱物」との宣告を受ける。
しかし、色はかなり黄金に近い。
よく見ると、見事なまでの正方形の結晶であった。
上手くいけば、制限時間内で微小な粒が5粒くらい取れるらしいが、Yは苦戦。
見かねた職員の男性が手伝ってくれた。
最終的に、Yが取ったのは1粒だけ。見かねた職員の方がささっとお手伝い。
手際よく砂の中から金を取り出し、4粒小ビンに入れてくれた。
Kは少しマシだったが、一粒だけお裾分けを頂いた。
ちなみに、最高記録は30分で130粒らしい。(2011年現在)
砂金取りは、かなり地味な作業のようにも思えるが、上手くなれば結構ハマるのではないだろうか。
このあたりには、武田信玄の「隠し金山」の伝承がある。
鉱山の跡には、特徴的なシダ「金山草」がよく生えているという。
暗闇の中、光り輝く山や川があったら、そこには金が眠っているかもしれないーーー。
もし、金が出そうな場所が見つかったら、本気で通ってしまいそうだ。
黄金伝説はともかくとして、手軽に楽しめる、KY夫婦おすすめの体験イベント。
富士山観光の際には、是非とも「湯之奥金山博物館」にお立ち寄りを。
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