干拓地は湿度が高いとは聞いていたが、駐車場のすぐ後ろが用水路であったりするせいか、寝ている間一晩中背中は汗でびっしょり。たまらなくなって、朝から近くにある「ポルダー潟の湯」に行って入浴することに。ちなみに「ポルダー」とは英語で「干拓」という意味だそう。
ここは500万年前に地中に形成された植物質の有機物がお湯に溶け込んでいる「モール泉」というもので、全国でも珍しい。黒紫色のお湯は心なしかネットリして、とても温まる。
気分良く温泉の建物を出ると、外は雨。台風が近づいており、雨足はどんどん強くなってきているようだ。多少不安になり、天気予報を確認。なんとか行ける。
せっかくなので男鹿半島の沿岸部を覗きがてら、隣の男鹿市にある「なまはげ館」へと向かう。
ここには実際に使われた150体のなまはげが展示されている。
なまはげの面は、それぞれの集落で少しずつ異なるものになっており、必ずしも全てが芸術的という感じではないが、総じて無骨で荒々しく、南米など他の文化圏の面に似ている印象を与えるものもある。
なまはげのような「恐ろしいものが家々にやってくる」という風俗は、「おとずれ神」と呼ばれ、日本の他の
地方でも広く分布しているらしい。必ずしも大晦日、そして鬼というわけではなく、異なる時期に、異なる格好で行われる行事になっている。
館内には15分ほどの映像で、ここ男鹿地方のなまはげ行事を紹介しているシアターがある。なまはげに扮するのは独身の男性に限られ、大抵2人か3人で一組になり、神社で清めの儀式を終えてから家々を回る。家々では大切な客人をもてなすように、ハレのお膳を準備し迎えるのだが、小さな子供達は、大声を張り上げ乗り込んでくる鬼達を見て泣き叫び、連れ去られまいと、柱や親にしがみついて、もう大変である。
なまはげを演ずる若者の方はもっと大変だ。子供達を驚かすだけでなく、良い子でいるように説教をして、受けた盃を飲み干し、大いに暴れまわって颯爽と出ていくことを、一体一晩で何軒回るのか分からないが、自分になまはげが乗り移るほど真剣にやらないと、怖さは伝わんないんだろうな、と思った次第。
最後に、「なまはげ変身コーナー」で衣装を身につけ記念撮影。
しかし、誰が変装しているのか全く分からない。
ちなみに、これが展示されていた人形。このくらいの派手なポーズをしないと様にならない⁈
一行が「なまはげ」になっている間に、辺りは暴風雨に。おちょこ傘にならないように気をつけながら車へ戻り、蝸牛のようなノロノロ運転で秋田市まで移動。市内北端にある秋田県立博物館を見学することに。
入場無料という気前の良さだが、郷土の歴史を文物で紹介する人文展示室や自然展示室、秋田の偉人を紹介する先覚記念室など、内容もバラエティに富み、分かりやすい展示となっている。
そして注目は、江戸時代中期の旅行家 菅江真澄についての展示室「菅江真澄資料センター」である。
実は今回の旅行中も、東北地方各地で「菅江真澄」の名前を目にしていた。東北地方を中心に、ほうぼうを自分の足で歩いて記録していた人物のようだが、教科書にも載っていなかったし、彼についての知識は皆無だった。
菅江は1754年の生まれ。日本地図を作った伊能忠敬が1745年生まれだから、ほぼ同時代だ。菅江は蝦夷地も旅しており、蝦夷研究の先駆者である1818年生まれの探検家・松浦武四郎よりも先んじている。それでも、測量者としての伊能、探検家としての松浦のような派手な業績に比べると、正直「地味」ということになる。
彼は本草学(漢方薬)の知識を持ち、また歌人であり、且つ国学者であり、画家でもあったので、弘前藩では薬草の調査に協力したり、行く先々で歌人同士の交流を楽しんだり、指導をしたりした。つまり只の旅行者ではないのだが、40年以上を旅に暮らした、その足跡を見れば、歴史上比類なき「好奇心旺盛な旅行家」であったことは間違いない。
彼については研究者も大勢いて、ネット上でも検索可能なので、ここでは敢えてふれないが、特筆すべきは、彼の描くスケッチ画である。彼の旅行記には彼自身による豊富なスケッチ画が載っている。各地で目にした風俗や自然などが、時には彩色で描かれており、学術的価値も高いという。
この展示室では実際にそのスケッチ画を見ることができるのだが、その精密さと豊富さに圧倒される。スマホのシャッターひと押しで何でも済んでしまう現代では、この熱意は想像ができないだろう。
実際に、この旅行記は現代の旅行ガイドブックさながら、旅行記として出版されていたらしい。版元の大旦那がパトロンとなって彼の旅を支援していたという話もある。
展示の上手さもさることながら、視野の広い、飽きのこない内容で、見学時間ギリギリまで食い入るように見入ってしまった。
「蛍の光♪」に見送られ博物館を後にした頃には、なんとか暴風雨も収まり一安心。
隣の潟上市に移動しようと、ナビで地図を確認しようとすると、なんと、この博物館のすぐ近くに金足農業高校が‼︎
今、東北でもっともクールなこの高校。秋田県内では、どこに行っても「金足農業高校 準優勝おめでとう‼︎ 」の張り紙で溢れている状態。ここで行かない手はない。ややミーハーながら、校門まで行って写真を撮ってしまった。
「このグラウンドで日夜汗を流していたのだと思うと感慨もひとしお」と、つくづくミーハーなK。
後になってYの旧友も、たまたま出張で秋田入りしており、同日の数時間前に金足農業高校見学に訪れたと知り、皆考える事は同じと笑ってしまった。
校門付近では数台の車とすれ違ったから、ちょっとした観光地となってしまっている? 地元の皆さん、ごめんなさい🙏。
さて、この日は Yが昨晩から予定していた通り、金足農業高校にも程近い(これはまったくの偶然)、道の駅「しょうわ」で宿泊。
雨も止み、周囲は虫の音しか聞こえず。花と緑に囲まれた、まったくもって のどかな道の駅である。風に誘われ、ちりりん、ちりりんと、微かに風鈴の音がー。
ああ、日本の夏、ここにあり。
明日は、日本屈指の大曲花火大会。天気は大丈夫だろうか。(KY)
0コメント