「沖縄を離れる前に、もう一度お会いしたい」という、こちらからのリクエストで、JICA沖縄国際センターの前川さんと、那覇市前島にある居酒屋「魚河岸」で待ち合わせる。
先方指定の時間が19時半と、いつもよりやや遅かったので、「一つ宴席をこなしてから来るのではないか」と、我々は予想していた。
そして、いつもの通り若干遅れ気味で店に入ってきた前川さんは、馴染の大将や女将さんに挨拶すると、片手でやあやあという身振りで軽く会釈をしながら座席に到着。
その後は欧米人さながら大きく手を広げてハグ。
熱い抱擁を交わした後は、小上がりにドサっと腰掛けるや否や「いやあ、模合(もあい)にひとつ出てきたヨ〜」と言った。
「模合(もあい)」とは、沖縄(及び鹿児島県奄美群島)独特の文化の一つで、本土における「頼母子(たのもし)講」や「無尽講」に相当する、一種の相互扶助システムだ。
ちなみに、イースター島の「モアイ像」とは関係がない。
具体的にはこんな感じ。
月に一度、決まった日に、特定の個人(時には法人)が集まり、3千円〜1万円程度(それ以上の場合もある)の決められた金額を納める。
クジ引きなどで選ばれたその中の一人が、集められた全額を受け取る事ができる。
各自1万円でメンバーが10人なら、10万円を一度に受け取ることになる。
次回の模合では、その人はクジから外され、メンバーが一巡したら元に戻るという仕組みだ。
模合の歴史は琉球王国時代に遡るらしいが、例えば戦後の沖縄では、銀行の融資は個人には敷居が高く、高利貸しは金利が高すぎるため、事業資金調達などを目的に模合が行われた。
現在も資金調達的役割は残しつつも、飲み会の延長のようなノリで気軽に参加できる異業種懇親会のようなもののようで、30台前後の若者層も加わり盛んに行われているようである。
ポイントは、確実に参加し決められた額を支払い続ける必要があるため、「信用できる人間のネットワーク作り」の意味を重視していることだ。
もちろん、こういう付き合いを面倒に感じ、模合に参加しない沖縄人もいる。
その一方で、人情派の親方気質の前川さんのように、3つほどの模合を掛け持ちする人も少なくないらしい。
模合の話はさて置き、「魚河岸」は前川さんご推奨のお店だけあって、その名の通り、魚がとても美味しい。
刺身の盛り合わせは、右端の黒い貝が沖縄の名物、ヒメジャコ。
歯ごたえとほんのりした甘み、磯の香りが鼻に抜ける。
こってりとした甘みのホタテは北海道産だ。
脂の乗ったカジキマグロとハマチ。
艶めかしく光る赤貝。
プリプリとしたタコ。
噛めば噛むほど磯の香りが滲み出てくるアワビ。
以上、豪華七点盛りである。
次に、沖縄の県魚として食卓の常連である「グルクン」を、唐揚げにしていただく。
グルクンの唐揚げはスーパーの惣菜コーナーにも並んでいるのだが、こちらはさすがに格段の香ばしさ。頭から骨まで完食する。
その他にも、テビチの煮付けやヘチマのチャンプルー、島らっきょうなど、ウチナー料理を堪能する。
最初はビールだけのつもりだったが、泡盛を、しかも折角だから最高級の銘柄を、という前川さんのオススメもあり、「泡盛特選古酒・菊之露VIPゴールド」を注文。
自分で買っていた紙パックの「残波」も悪くないが、こちらは爽やかな口当たりと香りが別格。水割りにして余裕で一本空けてしまった。
閉店時間になったので「魚河岸」を後にし、前回同様「クラフトビアハウス・麦(ばく)」で2次会。
マスターお勧めの珍しいビールをいろいろ楽しむ。
3次会は、これも前回同様、桜坂にあるバー「MM」。
カウンターの中と外で交わされる話を聞いていると、前川さんの周囲に座っていたお客さんは、皆さん例の「模合仲間」らしい。
こちらのママも模合仲間。今日は模合を早めに切り上げ、お店に駆けつけたそう。
この模合メンバーは3、40代が中心らしく、華やかに着飾ったオシャレな雰囲気の方たちだったので、店に入った当初は、てっきり何かのパーティ帰りに立ち寄ったものと思っていた。
ところで、琉球王朝についての本を読むと、「親方(うぇーかた)」という呼称がよく出てくる。
これは本土での職人の敬称としての意味とは異なり、「琉球王朝で王族に続く上級官吏の職掌」のこと。
最近、この言葉が気に入って、「前川親方」と半分冗談で呼んでいるのだが、店のママにこの話をすると、親方には「頼りになる親分肌の人」というニュアンスもあって、前川さんにはピッタリの呼び方だ、とのこと。
今晩も、したたかに酔って、最後の方は記憶があやふやだった。
前川親方、沖縄では3度もお付き合いいただき、有難うございました!
お陰で、ディープな沖縄の夜を堪能させていただきました。(Y)
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